メガネはもういらない

投稿日 2008年10月17日

ピーター・グルンワルド『アイ・ボディ: 脳と体にはたらく脳の使い方』(片桐ユズル訳, 誠信書房, 2800円+税)が出ました。
「訳者あとがき」より
ピーター・グルンワルドはドイツで1950年代に生まれましたが, 3歳のときからメガネをかけ27年間すごしてきました。 強度の近視と乱視のため10センチ先しか見えないばかりでなく, 姿勢も前屈し, おまけに吃音でした。しかし心身の不必要な緊張に気づき, それをやめていくことを学習するアレクサンダー・テクニークに出会い, 姿勢もよくなり吃音もなおりました。 アレクサンダー・テクニークではひとりひとりの人間に生来そなわっている能力が活性化されるのを手伝います。 その延長線上で当然考えられることは, 目の問題もそのように解決できてもよいのではないでしょうか?
そうです。 すでにウィリアム・H・ベイツ(1860-1931)というニューヨークの眼科医が, メガネをかけなくてもよく見えるための目の訓練法を開発していました。 それをさらに発展させたジャネット・グッドリッチ博士(1942-1999)について学んだピーターは18カ月でメガネをかけなくてもよくなりました。 グッドリッチ博士はライヒ療法家でもありましたから, 目だけの問題ではなく, こころと関係していることを知っていました。 また彼女は目をはたらかすためにブレイン・ジムの方法をとりいれました。
ベイツは目の不必要な緊張をほぐすために, 目をいろいろに動かす練習を考えました。 一方, アレクサンダー・テクニークは不必要な緊張をやめるために筋肉をあれこれ動かすのではなくて, 頭の中で「やめておこう」と思うだけなのです。 これが他のボディワークや練習法と異なるところですが,アレクサンダー教師養成コースのトレーニングを受けたピーターは, 目を筋肉で動かすのではなくて, 脳の中から意識的に指示を出すことで目の状態にはたらきかけます。 別の言い方をすれば, 視覚脳を「意識的」に使うことで, 目の機能を変えていきます。 アレクサンダーいうところの, 使い方によって道具が変わるのです。  
このようにしてピーターはアレクサンダー・テクニークとベイツ・メソッドを, 脳の使い方という, より高い段階で統合しました。 ピーターの発見によると, 目と視覚脳の各部分は, 体の他の部分と対応していて, この関係を彼は”Eyebody Pattern”と呼びました。 視覚はすべての感覚を統合するばかりでなく, わたしたちの生き方を統合し見通しをつけます。 ピーターが扱っている応用例は, 近視, 遠視, 老眼, 乱視, 白内障, 緑内障など視力の問題だけでなく, 仕事, 人間関係, 自動車の運転, スポーツ, 舞台芸術, 愛とセックス, 瞑想, 死に方, にまでいたります。
アレクサンダー・テクニークとベイツ・メソッドに助けられ人生をまっとうした, もうひとりの思想的巨人にオルダス・ハクスリー(1894-1963)がいます。 ピーターもいっているように, ある意味でわたしたちは, ハクスリーが『ものの見方』(1942年)で指し示した道を, たどっています。 その本で彼はすでに, 見ることと, 洞察, 瞑想, 霊性, とのつながりを示唆しています。ハクスリーを身近に知るひとたちの話によれば, ベイツ・メソッドの実践によって彼の目そのものの状態は変わらなかったようですが, 視覚全体の使い方がよくなって, メガネなしで自動車も運転し, ひとの気づかない草花にも気づいたそうです。 彼がロサンゼルス近郊に定住した大きな理由のひとつは, コーベット女史(Margaret Darst Corbett, 1930-1961)という, すぐれたベイツ教師がいたからです。 彼ははじめのうちは毎日1時間以上, あとになってからは毎週火曜日にレッスンをうけたそうです。 彼は毎日かなりの時間をついやしてベイツの練習やパーミングをしていたそうです。
わたしたちはだれでも本来的にすばらしい能力を備えて生まれてきましたが, 成長発達の諸段階でいろいろな困難に出会い, それに対処するための緊急手段がそのまま固定して, 変わりゆく現在の状況に対しては不適切な
緊張となることが多いのです。 目と視覚システムの不必要な緊張に気づいて, これをやめてゆくには, どうしたらよいでしょうか?
そのためには目とか脳を筋感覚的に内側から気づくことが必要です。 いわゆる五感というものは外からの情報を受け取るものですが, アレクサンダー・テクニークでは自分の内部についての感覚を敏感にします。 それを使えば脳のはたらきを自在にする手がかりになります。 しかしたいていのひとは自分の内感覚をあまり意識せずにすごしていますから, はじめのうちは教師の手をとおして筋感覚を意識させられることが必要です。 多分その経験がないと, この本をお読みになっても, ピンと来ないことが多いのではないでしょうか?
 ひとりではじめられる最初の一歩については第8章で述べられていますが, 第2段階においては教師の「手」助けが必要です。 わたしは2000年1月にニュージーランドで1週間の合宿に参加して以来, 毎年ピーターのお世話になっていますが, 彼の手にタッチされることにより, 筋感覚的に脳内探検の手がかりがつかめ, 視覚システムと体の他の部分との関係, アイボディ・パターンを意識させられます。
今日わたしたちは, ますますコンピュータのウィンドウの中にのめり込み, 広い視野と身体感覚を忘れがちですが, 本書がきっかけとなり, 自分のまわりの世界の実感を取りもどすだけでなく, 脳内探検の新しい一歩を踏み出すことになっていただければ, 訳者として最高のよろこびです。
片桐ユズル


“メガネはもういらない” への1件のコメント

  1. 「アイ・ボディ」(ピーター・グルンワルド著、片桐ユズル訳、誠信書房)

    この冬、FPTP京都の講習(2008.12.27~2009.01.08)では、講習前にある本を読んでいたせいか、いつもと違って「眼」に意識を向けながら、レッスン(ATMやFI*1)を受けていました。 その本とは、masaさんのブログ 『走ることが私のリズム。続けることは力になります。』

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